• インタビュー

Authense社会保険労務士法人 代表社会保険労務士・桐生由紀さんに聞く 保育士が長く働ける職場の見極め方

保育士が長く働ける職場の見極め方とは?

保育士として働く中で、
「今の職場をこのまま続けていいのかな」
「転職するなら、今度こそ長く働ける園を選びたい」
そう感じたことがある人は、きっと少なくないはずです。

求人票には給与や休日、福利厚生が並んでいても、実際に長く働けるかどうかは分かりません。制度はあるけれど使いにくい、評価制度はあるけれど運用されていない、役職はあるけれど誰が何を見ているのかが曖昧。そうした入ってみないとわからない部分が、働きやすさを大きく左右することがあります。

今回は、Authense社会保険労務士法人 代表社会保険労務士・桐生由紀さんに、長く働ける職場の特徴や、離職が起きやすい園の傾向、求人票や面接で確認したいポイントについて伺いました。

ご経歴
東京都社会保険労務士会所属。創業間もないベンチャー企業だったAuthense法律事務所と弁護士ドットコム株式会社の管理部門の構築を牽引。その後、Authense社会保険労務士法人を設立し、代表に就任。企業の人事としての長年の経験と社会保険労務士としての知見。双方の視点からの提案力を強みとされている方です。(会社HPX(旧Twitter)LinkedInnote

まずは自己紹介からお願いします

鍵尾
本日はよろしくお願いいたします。
まずは自己紹介からお願いします。

桐生由紀さん
Authense社会保険労務士法人で代表社会保険労務士をしています。主に企業のクライアントを中心に、会社側の顧問という形で仕事をしています。会社や労働環境の整備を中心に執り行っており、もともと企業の人事をずっとやっていた経験もあるので、「制度としてはこうだけれど、実際には運用面でこういう難しさがある」といった理想と現実の両方を見てきたことが自分の強みだと思っています。

鍵尾
制度だけでなく、現場の実務まで見てこられたんですね。

桐生由紀さん
そうですね。労務のルールはすごく複雑ですし、AIやインターネットで調べた内容が、そのまま現場に当てはまるとは限りません。だからこそ、現場と実務をうまくつないでいくことが大事だと思っています。

企業からは、どんな労務相談が多いのでしょうか

鍵尾
普段は、どんなご相談が多いのでしょうか。

桐生由紀さん
比較的、中堅から大きめの企業やIPOを考えている会社さんが多いので、「労務環境をちゃんと整えないといけない」という意識を持っている企業が多いです。制度をどう守っていくか、従業員にとって働きやすい制度をどう入れるか、といった前向きなご相談も多いですね。

桐生由紀さん
一方で、経営者の方が悪気なく守れていないケースも結構あります。守りたくないというより、知らないから守れていない。そのため、一緒に理解しながら整えていく、というご相談も多いです。人が増えてくると、評価制度やハラスメント、労務トラブルの相談も増えていきます。

長く働ける職場には、どんな特徴がありますか

鍵尾
今回は保育士さん向けにお伺いしたいのですが、まず、長く働ける職場にはどんな特徴があるのでしょうか。

桐生由紀さん
大きく2段階あると思っています。
まず1つ目は、最低限の労務環境が整っていることです。有給がちゃんと取れる、残業したら残業代が出る、必要以上の長時間労働ではない。そういったベースの部分ですね。そこが崩れていると、やはり人は長続きしません。

桐生由紀さん
そのうえで2つ目が、評価制度やマネジメント機能がきちんと運用されていることです。何を頑張ったら評価されるのか、自分がちゃんと見てもらえているのかが分かる状態になっていること。制度があるだけでなく、管理職やマネージャーがそれを適切に運用して、フィードバックできていることが大事だと思います。そういう職場は、離職も少なく、満足度も高い印象があります。

鍵尾
制度面が整っていることは大事だと思うのですが、やはり「制度がある」だけでは足りないのでしょうか。

桐生由紀さん
そうですね。制度として存在していても、実際には機能していないケースはあります。有給もそうですし、残業代もそうです。制度上は整っていても、現場では取りづらかったり、運用が伴っていなかったりすることがあります。

桐生由紀さん
特に女性が多い職場では、長期的に働き続けられるかどうかが大事になります。若いうちは働けても、5年後、10年後にここで働き続けられるかな、と考えたときに、目の前の先輩たちがどう働いているかはすごく大きいです。ロールモデルになる人がいない職場だと、定着しづらい印象があります。

保育業界ならではの特徴はありますか

鍵尾
保育業界に当てはめたとき、特有の特徴はありますか。

桐生由紀さん
保育業界は、一般企業と比べると、マネジメント構造が弱いところがある印象です。園長先生はいても、その下の主任の役割が整理されていなかったり、何年か経つと主任になるけれど、何を担う役割なのかが明確ではなかったりすることがあります。

鍵尾
確かに、「どうやったら園長になれるんですか」と聞いたときに、明確に答えられない園も少なくない印象があります。

桐生由紀さん
そうですね。園ごとの運営になりやすく、配置基準や補助金の仕組みもあるので、一般企業のように役割ごとの組織設計をする感覚が弱くなりやすいのかもしれません。結果として、役職名はあっても、組織としては整理されていないことがあります。

離職が起きやすい職場には、どんな兆候がありますか

鍵尾
逆に、離職が起きやすい職場にはどんな兆候がありますか。

桐生由紀さん
休みが取りづらい、というのは一つ大きいと思います。保育園はシフトを組んで運営しているので、ぎりぎりで回していると、簡単に休めない状態になりやすいです。そうすると残業や業務量にも影響して、ベースの労務環境が崩れやすくなります。

鍵尾
どうしてそうなりやすいのでしょうか。

桐生由紀さん
保育園は補助金を受けながら運営しているので、園児数が減ると収入も減ります。だから余裕を持って人を雇うのが難しい面があるんです。ただ、その中でも短時間勤務の方やスポット人材を組み合わせながら調整できる園もあります。このあたりの仕組みづくりが上手い園と、そうではない園に分かれる印象があります。

鍵尾
たしかに、同じ「人手不足」でも、急な対応ができる園と、全部が現場の我慢で回ってしまう園では全然違いますよね。経営母体の違いも含めて、背景の構造まで考えないと見えない部分が多いなと感じました。

改善するとしたら、何から手をつけるべきですか

鍵尾
もし保育園が改善するとしたら、何から始めるのがよいのでしょうか。

桐生由紀さん
まずは組織をちゃんと作ることだと思います。必要人数の保育士を配置して、なんとなく主任がいて、園長が一人いる、というだけだと、チームとしては組織化されていません。園長を中心に、主任には主任の役割があり、メンバー育成やマネジメントを担う、という形をまず整える必要があります。

桐生由紀さん
評価制度を作ろう、という話になることもありますが、組織ができていなければほとんど機能しません。誰が運用するのか、誰が見るのかが決まっていないと、立派な制度があっても現場では回らないんです。

求人票だけで見えることには限界がありますか

鍵尾
転職活動では、求人票を見て判断する方も多いと思います。求人票だけで見えることには限界がありますか。

桐生由紀さん
ありますね。求人票には、明示しなければいけない事項が決まっています。労働時間、シフト制かどうか、固定残業代制度の有無など、雇用契約に関わる基本事項は書かれていなければなりません。そこがふわっとしている求人票は、まず注意して見たほうがいいです。

鍵尾
まず、書いていなければいけないことが書かれているかを見る必要があるんですね。

桐生由紀さん
そうです。ただ、そこから読み取れるのは基本事項が中心です。評価制度の運用、休みの取りやすさ、相談のしやすさ、持ち帰り仕事の有無などは、求人票だけでは見えません。そこは面接や見学で確認していくしかないですね。

面接や見学では、どんなことを聞くべきですか

鍵尾
実際に面接や園見学に行ったとき、どんなことを聞いておくとよいのでしょうか。

桐生由紀さん
まず、休憩はどう取っているか、実際に取れているか。残業はどれくらいあるか。そのあたりは聞いたほうがいいです。あとは、給与や待遇の説明を受けたうえで、その後どう評価されるのか、誰が評価するのか、どういう仕組みで昇給していくのか、といったことも確認しておくといいと思います。

鍵尾
聞きにくいと感じる方もいそうですね……。
でも逆に言うと、そこを聞けずに入ってしまうほうが後から苦しくなる、ということでもありますよね。

桐生由紀さん
もちろん難しさはあると思います。ただ、気になることを聞かずに入社してしまうほうが、後から引っかかりを持つリスクは大きいです。園がどういう仕組みで運用されているのかは、ちゃんと聞いておいたほうがよい大事なポイントです。

給与や手当は、どこを見ればよいのでしょうか

鍵尾
保育園の給与体系は、かなり分かりにくい印象があります。

桐生由紀さん
そうですね。保育園は、基本給にいろいろな手当がついて、さらに処遇改善なども絡んでくるので、かなり複雑です。年収だけ見て入ると、思っていたのと違った、ということも起きやすいと思います。

鍵尾
確かに、新卒の保育士さんがそれを理解するのは簡単ではなさそうです。

桐生由紀さん
本当にそう思います。だから、基本給はいくらなのか、賞与はどれくらいなのか、変動する手当は何か、経験加算や資格による加算があるのか、といった内訳まで確認していくことが大切です。研修制度や資格取得支援がどう給与やキャリアにつながるのか、という点も見ておくとよいと思います。

鍵尾
ありがとうございます。
ここは、まさに私たちのようなエージェント側が、もっと言語化してお手伝いしないといけない部分だなとも感じました。制度が複雑だからこそ、解像度を上げていくことが大事ですね。

最後に、保育士が職場選びで一番大事にしたいことは何ですか

鍵尾
最後に、保育士さんが転職や職場選びをするときに、一番大事にしたいことを教えてください。

桐生由紀さん
制度があるかどうかだけでなく、それが実際にどう運用されているかを見ることだと思います。休みが取れるのか、評価がどう行われているのか、将来の働き方をイメージできるのか。そうした点を見ていくことが大切です。

鍵尾
そうですね。
本日お話を伺っていて、制度の名前や条件だけを見るのではなく、「その園が人をどう支えているか」「その仕組みが本当に現場で動いているか」を見ていくことが大事なんだと、改めて感じました。
今の園を見直すきっかけにもなりますし、これから転職を考える方にとっても、具体的な判断材料になるお話ばかりでした。

 改めて、本日はありがとうございました。

桐生由紀さん
ありがとうございました。

まとめ

今回のインタビューでは、長く働ける職場には、最低限の労務環境と、実際に機能している評価・マネジメントの仕組みが必要だという話がありました。特に保育業界では、制度の有無だけでなく、ロールモデルの存在や、組織としての役割分担が見えるかどうかも重要です。転職前には、求人票だけでなく、面接や見学の場で「実際どう運用されているか」を確認していくことが、ミスマッチを減らす一歩になりそうです。

今の園を続けるか迷っている。
転職したい気持ちはあるけれど、何を基準に選べばいいのか分からない。
そんなときは、一人で判断しようとしなくても大丈夫です。保育士Reachでは、求人票だけでは見えにくい情報も含めて、職場選びや転職の相談ができます。
まだ転職すると決めていない段階でも大丈夫なので、まずはLINEで気軽に相談してみてください。